気づかぬうちに進んでいく色覚異常

自分が、

「年を取ったな…」

と実感せずにはいられない要素として、視力の低下を上げる方が多いのではないでしょうか。無意識のうちに手元の本をグッと離して読む自分に気づくと、ついついため息が出てしまいます。

でも、加齢が原因となるピント機能の衰え(いわゆる老眼)は誰でも自覚症状のある事なので、老眼鏡を手にする勇気(あきらめ?)さえあれば容易に調整することは可能であるため、さほど不自由なく生活することは出来ますが(かけたり、外したりと面倒ですが…)、自覚もなく、容易に補正を行うことも出来にくい、加齢性の目の衰えがあることはあまり知られておりません。

それは、色の判断がつかなくなる「色覚異常」です。

色覚異常と聞くと、色を認識できなくなってしまい世界が白黒テレビのようにみえるようになったり、特定の色を認識できなくなるのではないだろうか心配される方もいらっしゃるでしょうが、実際には今間まで通りの見え方として感じられるために、自覚症状も現れにくく、生活に不便を感じることもほぼありません。

が、この「今まで通り」であるがために家庭内での重大な事故の要因となってしまう、危険性があるのです。

順を追ってご説明させていただきます。

 

気付かないうちに進む加齢性の色覚異常

色覚異常という言葉を聞くと、ある一定以上の年齢の方であれば、学校で円の中に数色のドットで描かれた文字を読み取る先天性の色覚異常である色盲や色弱を調べる検査を思い出されるのではないでしょうか。(※昨今では学校での検査も行わfれなくなり、色盲という言葉は昨今では使用しなくなりましたが、色覚異常という言葉が同世代や先輩世代の方々に思い浮かべやすいよう記載させていただきます)

その為、色覚異常というのは先天的な色の見え方のという認識も方も多いように思われますが、実は知らずしらずのうちにすべての人の色覚は、生まれた時から徐々に変化しているため、誰もがみな同じ色を見ているというのはないのです

なぜ、誰もが自分の目の変化に気づかないのか?それは目から光となって入ってきた色情報を、情報過多によるストレスを軽減するため、脳がその都度今まで見てきた色へと補正してしまうため。その為、リンゴやピーマンなどの野菜の色や、桜やヒマワリなどの季節の花の色が年々濁って見えることがないのです。

 

加齢による色覚異常はどうして起こるのか

加齢の場合の色覚異常は、有害な紫外線などから眼球を守るため水晶体が徐々に黄変していくことで起こります。この黄変し濁った状態を「白内障」といいます。

白内障は治ることはなく進行するばかりなので、私たちの目は徐々に濃くなっていくサングラス越しにモノを見ているのと同じことが起こっています

その色の濃さは、80代の人ではビール瓶の底越しに見ているのと同等といわれており、脳内での色彩補正があったとしても実際にはどれだけ若い世代との色彩のギャップが生じているかわかるかと思います。

私自身の母は、以前から白内障との診断を受けておりましたが、徐々に夜の車の運転が心配になり、数年前に白内障の手術を行いました。手術を終え包帯を外すと、

「世界ってこんなに白く、明るかったのね!!」

と、びっくりし、

「私が今まで見ていた世界は、こんな感じだったのよ!」

と、少し濃いめのサングラスを渡されたことを覚えています。(当時は何も知識がなく、正直「なんのこっちゃ??」と思いましたが…)

白内障の手術自体は日帰りでもできる手軽なものとなっていますが、はっきりと診断がなければ手術を受けることが出来ないため、軽度の方はそのまま生活を送ることとなります。大きな支障も、自覚もないので一見問題はないように思えますが、ある程度の年齢になったら意識して生活の中の危険回避を考える必要があるのです。

特に色の認識が出来ないこと重大な事故が起こる、キッチンについて記載いたします。

 

キッチン環境の見直しは必須です

色覚障害になると、特に見えにくい色があります。それは青色。特に、炎の高温部分である上部の明るい水い色は認識することが出来ません。その為、炎がどこまで上がっているかがわからず、袖に火が付く着衣着火が起こってしまうのです。

昔、女優で、片岡鶴太郎さんのモノマネでも知られる浦辺粂子さんは、コンロの炎に気づかず、衣服に火が移ってまい、大やけどが原因となりお亡くなりになりました。浦部さんは浴衣でキッチンに立っていたとの記事もあり、おそらく袂が炎の先に触れたのでしょう…。

コンロの炎による着衣着火は大やけどや、死亡事故となる危険があるため色覚異常が進んでいる高齢の方は特に注意が必要なのです

キッチンでの事故を防ぐためのポイントを記載いたします。

 

  • キッチン周りに調味料や、調理器具を置かない

よく、使い勝手や、時にはおしゃれなキッチンのインテリアとしてコンロのそばに調味料を飾ったり、調理道具をひっかける方もいらっしゃりますが、年齢が高くなってきたら、是非やめた方が良いでしょう。調理中はついつい慌ただしく作業を行うため注意力が散漫となりやすく、うっかり火のついたコンロの上に腕を伸ばしてしまうこともあります。この時、ガスの炎の高温の部分が認識できず、衣服に炎が燃え移る可能性があるためとても危険です。

普段のお掃除の観点からも、調味料の瓶などに油が飛ぶと後々固まってしまい除去するのが大変です。コンロ回りはすっきり片づけましょう。

 

  • 出来れば三口コンロの場合、奥のコンロは使用しない

年齢が上がってくると、姿勢や骨の状況から必然的に身長が低くなるため、手を伸ばして使用する三口コンロの奥のコンロは以前よりも使いにくくなります。その状況で、手前のコンロを使用時に奥のコンロに手を伸ばすと衣類着火の可能性が高まります

もちろん手前のコンロを消してから使用すれば問題はないのですが、実際には奥のコンロは手前のコンロを使用している時に使用することが多いため、出来るだけ使用はしない習慣をつけた方が良いでしょう。

 

  • キッチンの照明を明るいものへ替える

照明を明るくすることは色覚異常のほかにも、刃物を扱うときや、食材の鮮度を確かめるためにもとても役立ちます。

照明器具自体を変えてもよいのですが、出来るだけ費用を抑えるためには電球や蛍光灯管を照度の高いものに変えるだけでも問題ありません。

 

  • IHクッキングヒーターに替える

ご高齢の方の場合、IHクッキングヒーターに変更すると炎で加熱しない為、とても安心です。特におひとりでの生活を送られてらっしゃる場合、何か火を消せない状況が起きても火事にならずに済みますのでお勧めします。

ただ、IHクッキングヒーターを導入するには器具の購入設置費用のほかにも、単相2線式配線(普通)を単相3線式配線に切りかえる工事費もかかり、また、電気の契約容量の変更にともない基本料金などのランニングコストが上がること忘れてはいけません。

また、昨今では自然災害による停電の被害が発生しやすくなっております。オール電化でのご検討の際はいざというとき使用出来なくなってしまうリスクも考えておく必要があります。(軽井沢では台風による倒木や、豪雨、大雪の影響で、数日続いた停電を経験しました。その際、プロパンガスのガスコンロは影響がなく、調理や、体を拭くお湯も沸かせとても助かりました)

 

  • エプロンの使用を習慣づける

冬時期は特にゆったりとし、なおかつ起毛した衣類を着る機会が多くなるため、ご高齢の方でなくとも着衣着火の危険性がアップします

調理を行う際、防炎加工された割烹着を活用することで着衣着火の危険性は低くなり、万が一着火してもやけどの重傷度を下げることが出来るため習慣づけることをお勧めします。

「割烹着はおばさんみたい…」

と嫌悪感がある場合はエプロン+防炎加工されたアームカバーを使用されると良いでしょう。

 

疾患が原因の色覚異常

色覚異常には白内障のほかに、疾患が原因の場合があります。

  • 網膜疾患(青黄)
  • 緑内障(青黄)
  • 視神経疾患(赤緑か青黄若しくはその両方)
  • 大脳疾患(モノクロに見える・急性の脳梗塞では急激におこる)

脳梗塞など処置を急ぐ疾患もありますので、明らかに普段と違って見える場合は早めに受診いたしましょう。

 

眼の衰えと福祉住環境整備の必要性

家庭内事故の中でも、元を質せば眼の衰えや、眼の疾患が原因となることが多々ございます。

ちょっとした工夫で防げる事故もありますので、「眼」についての記事は、また改めて書かせていただきます。

 

参考文献:「知られざる色覚異常の真実」 市川和夫:著(幻冬舎)

 

事故を防ぐためのリフォームや整理などお気軽にご相談ください