暮らしの中に潜む危険を除去し転倒を防ぎましょう
何気なく暮らす毎日。でも、ふとした瞬間、
「あ、危なかった!」
とハッとすることがあります。
住宅改修の大きな目的の一つはこの「危険をできる限り無くす」ことです。
では、どこに危険があり、その弊害は何なのかを、今回は転倒に的を絞り記載させていただきます。
*転倒を防ぐことは命を守ることになる*
ご年配の方というとお風呂での死亡事故が一番に浮かびやすいでしょうが、厚生労働省が平成30年度に発表した「人口動態調査」の調査票情報、及び東京消防庁「救急搬送データ」をもとに出した「高齢者の事故の状況について」を見ると、救急搬送された事故のうち転倒・転落による事故が全体のおよそ8割を占めています。さらに死亡者で見てみると交通事故での死亡者の2倍以上となっております。
転倒と聞くとすぐに思い浮かぶのは「階段」だと思います。確かに若い人でも、うっかり足を踏み外すこともあり危険な場所ではありますが、実は階段以上に危険な場所があるのです。
それは「居室」。リビングや、ダイニングなど普通に過ごしている「部屋」なのです。数字で見てみると、第2位である階段のおよそ4.5倍!(ちなみに、3位:廊下、4位:玄関、5位:ベットと続きますが居室の数は他の場所に比べ物になりません)
「普通に過ごす場所でなぜ?」
と、不思議に思われるかもしれませんが、お若い方でもちょっとつまずいたことはあるのではないでしょうか?大概は大したことなく「こけた」とか、「おっちょこちょい」程度の笑い話で済まされるケースが多く、ピンと来ないかもしれませんが、それは反射神経が良く、瞬時に態勢を整えることができるため。
一方、歳をとると徐々に反射神経が鈍り、筋肉への反応も遅くなってしまい瞬時に体勢を整えられず、体の守るべき場所を守れないまま倒れてしまうのです。
部屋の中でどこに転倒の要因があるのかを調べることはとても大切なことです。
チェックポイントをいくつか記載させていただきます。
*床の上に不要なものはないか?*
住宅の中で事故を防ぐための一番のポイントは、床にモノがないことです。
まずは床座(畳やラグの上で過ごしていらっしゃる方)の場合を見てみましょう
- 雑誌や新聞など床に置いていないか→うっかり脚を載せることでそのまま滑って転倒してしまう原因となる
- コードなどの配線が動線(通路となる場所)を横切っていないか→コードに足をひっかけて転倒してしまう原因になる
- ティッシュや普段使いのカバンなどを便利だからと床に置いていないか→とっさの動作を取る際、存在を忘れ踏んでしまいバランスを崩す
- あとでしまおうと洗濯物をたたんだままにしている→とっさの動作を取る際、存在を忘れ踏んでしまいバランスを崩す
- 大きめサイズのこたつ布団→足をひっかけやすい(省スペースのこたつ布団ですと安心です)
- ラグやじゅうたんを敷いている→足をひっかけやすい
床座の場合、ついつい身の回りに置いてあるものが多くなりがちです。また、立ち上がり動作の際にバランスも崩しやすいためより注意が必要です。(疾患をお持ちの方や、体力の落ちているときなど特に注意してください)
続いて椅子座の場合を見てみましょう
- 使用していないスリッパがないか→うっかり脚をひっかける原因になる
- 動線近くに膝より低い家具や、荷物を置いていないか→視野に入りにくいため暗い時など足をひっかけやすい
- マットを敷いている→裏面に滑り止め加工がされていない、または滑り止めの効果が無くなっている場合、脚を載せたときそのまま滑って倒れてしまう
- コードなどの配線が動線(通路となる場所)を横切っていないか→コードに足をひっかけて転倒してしまう原因になる
椅子座の場合は、常に視野が胸よりも高い位置になる為、移動の時に見落としているモノにつまずいてしまうことが多くなります。インテリアとして籠やアンティーク小物を置いたり、植物を床に置かれている方は視野に入る高さに置き楽しむことをお勧めします。年齢に合わせたインテリアが必要なのです。
*若いころは気にならない段差が悪因となる*
住宅改修の中に、段差の解消がございます。
若いころは段差はあまり気にならなく、スキップフロアの家など遊び心のある家も好まれます。が、歳をとると、筋力の低下から自分では足をあげているつもりでも上がり切っておらず、躓いて転倒をすることがあります。
また、スキップフロアのような明らかな段差でなく、沓摺とよばれる扉の下部にある部材や、和室の場合敷居といった僅かな段差に躓くことがあります。(近年バリアフリーの住宅が増えない場合がありますが、和室と洋室の場合など使用する部材の違いにより段差のあるケースはまだまだ多いです)
また、浴室と脱衣所・洗面所との間も、水濡れによる部材の痛み防止のため段差のあるケースが多くなっております。(浴室についても後程詳しく記載いたします)
どの段差も2㎝程度と一見苦にならないものですが、苦にならないからこそ意識せずに躓いてしまうのです。
段差の解消は介護保険をお受けになっている方は住宅改修の対象となります。心配のある場所がございましたらご相談ください。
*ピカピカに磨き上げられた床は美しいけれど…*
子供のころ、つるつるした床の上靴下で走り勢いをつけ、つーーーっと滑って遊んだ経験があります。
つるつるときれいな床はとてもきれいですが、その上を靴下で歩くと滑って転倒することがあります。特に、寒い季節に厚手の靴下をはいているときはより注意が必要です。(滑り止めのついた靴下のご利用や、スリッパのご利用をお勧めします)
フローリング材によってはウレタン塗装を何層にも重ねることで強度を増し、つややかに仕上げてあるモノもありますが、こうしたフローリングはあまりお勧めできません。一概にフローリングといっても様々な仕上げのモノがありますので、これからリフォームを検討されている場合など必ず目視し、実際に足で確かめることをお勧めします。
*夜はより注意が必要です*
歳をとると徐々に明るさを感じにくくなります(※後程視覚については詳しくお伝えします)。
特に夜、他の家族に気を使い照明を落とした常夜灯のまま部屋を横切るときなど、若いころは暗くともすぐに順応もできるため苦にせず移動できますが、歳をとると足元は漆黒の状態となり、ほとんど感で移動することになります。
そんな時、足元に何か置いてあったり、家具がちゃんと整わず椅子がはみ出していたりしたら…危険は昼間以上になることは容易に想像が出来ます。死亡原因の第2位として挙がっていた階段での事故の原因もこの「暗さ」が関係していることが多いのです。
ついつい照明は家を建てたときに設置したら、なかなか見直すことなく使用し壊れても同じ位置に同様のタイプをつけることが多いものです。が、歳をとってきたら、是非、照明計画を立て直すことをお勧めします。
吉村順三さんの別荘のように白熱灯の持つレトロなぬくもりを好み、間接照明を活用されたインテリアを好まれる場合、どうしても照度の高い照明をつけることに抵抗がある方も多いでしょう。(私も大好きです!)が、今のイメージを壊さず安全な照明計画を立てることも可能ですので、不便を感じるようになってきたら是非ご検討なさってみてください。
*転倒が招く弊害*
高齢者の転倒は、死亡事故だけでなく、後々の生活へも大きな後遺症を起こす一因となります。
それは、骨折。年を取ると骨がもろくなり骨粗しょう症となっている方が多いため、若いころより骨折しやすくなってます。(特に女性はホルモンの影響で骨粗しょう症の方が多いです)
高齢者に多い骨折は
- 脊椎圧迫骨折
- 大腿骨頸部骨折
- 橈骨・尺骨遠位端骨折
- 肋骨骨折
です。交通事故で起る場合もありますが、ほとんどが転倒して打ち付けたり、とっさに体を支えようとして手を付いた時が原因です。(脊椎圧迫骨折はいつの間にか起きていることも多く、肋骨は咳などの他の要因ももちろんございます)
特に大腿骨頸部骨折の場合、長期の安静が必要となる為、その間筋力は落ち、肺機能も低下してしまい寝たきりとなるリスクがとても高くなります。そして寝たきりの生活から認知症へと進むことも多いのです。
他の部位でも治りは遅くなっているため、若い方が骨折をする以上に生活に不自由が生じるようになってしまうのです。
*家は安全な場所であるべきだから*
転倒について中でも事故の一番多い「居室」に着目して記載してきました。
若いころよりも、高齢になればなるほど自宅で過ごす時間が増えてきます。だからこそ、自宅はどこよりも心地よく、安全な場所である必要があるのです。
次回は少し趣向を変え、「木のオタク」である軽井沢森の雫の「木との向き合い方」を記載します。
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